こんにちは、ドリル・エンドミルなど切削工具の再研磨を行っているツールリメイクです。
普段からマシニングセンターやフライスなど加工の現場でタップを使用している方々でも、意外にもタップの使い分けができていないという話を聞きます。
とりあえず手元にあるタップを使用してしまうこともあると思います。
しかし、しっかりと使い方を把握せずに使用していては工具が折損してしまったり非効率な加工を続けていたりと損をすることばかり。
今一度、タップの使い分けについて確認してみてはいかがでしょうか。
タップとは
まず初めに、工具についてあまり知識がない方のために「タップ」という切削工具の働きから説明します。
あたり前の話ですが、きれいな丸い穴にネジを入れてもすぐに抜けてしまいますよね?
ネジのネジ山とぴったり合う穴があって初めて、ネジを入れても抜けない穴になります。
つまり、ネジを使用するためには、この「ネジ山に合わせた穴(めねじ)」が必要です。
「単なる穴」を「ネジの山に合わせた穴」に変形させる(加工する)専用の切削工具。
これがタップです。
タップ以外にも、旋削やフライス、放電加工などを用いてネジ山に合わせた穴(めねじ)を作ることはできます。
しかし、手間がかかってしまったり大規模な設備が必要となったりするため、安価で簡単に使用できるタップが最も使われています。
ネジの山(おねじ)とネジ穴(めねじ)は少しでもズレがあると、しっかりとネジを閉め込むことができなくなり、そもそもネジが入っていかなかったり、逆にスカスカで抜けてしまう場合があります。
ネジ穴を作る時は、そのネジ山にあったサイズの穴(下穴)をあけ、ネジ山にあったサイズのタップを使用して、ネジ穴を作っていく必要があります。
タップを回転させながら、下穴に差し込んで行くことで、タップが下穴の壁を削っていきネジ穴を作ることができるのですが、タップの中心と下穴の中心がズレていた場合も、おかしなネジ穴ができてしまい、使い物にならなくなってしまいます。タップでネジ穴を作るということはそれだけ、精密な加工が必要ということです。
タップの形状
続いて、タップの形状について見ていきましょう。
一般的なタップは、「食いつき部」「溝部」「ねじ部」「シャンク部」の4つの要素から成り立っています。こちらも普段切削工具やタップを使用している方にとっては説明不要ですが、一応ご説明を・・・
食い付き部
タップを下穴に差し込んで行く時、下穴の中心に差し込むために、ちょっとした工夫がほどこされています。
それが「食いつき部」です。タップの先端に行くにつれどんどんと細く(テーパー形状に)することで、中心がズレずにまっすぐ下穴に差し込むことができます。
テーパーになっている部分はネジ穴を作る機能はないので、欲しいネジ穴の深さにこの食いつき部を含まないようにしてください。
ネジ部
次はねじ部です。このねじ部によって、ネジ穴を作ります。
ネジの山と山の距離はネジの規格(JIS,インチ、メートル、並目、細目など)によって変わるので、それに合わせてタップの規格を選定しなければなりません。
シャンク部
続いてシャンク部です。このシャンク部はどの切削工具にも当てはまることですが、要は手や機械で持つ部分です。
このシャンク部分を手でもってネジ穴を切ったり、シャンクをタップハンドル(タップを回しやすくする工具)を装着したり、フライス機などで使用するコレットに取り付ける際も、このシャンク部を差し込みます。
溝部
最後に溝部です。溝部は、ネジ穴へ加工する際に出る金属の屑(切粉)を排出する重要な役割があります。
しっかりと切粉が排出されないと、切粉が詰まってしまいきれいなネジ穴が作れず、最悪の場合、タップが折れてしまうこともあります。
タップの種類によって溝部の形状は異なりますが、切粉を排出する役割は一緒です。
タップの種類
上記で少しお話が出ましたが、タップにもいろいろな種類があります。規格によってサイズや目の細かさなどの違いはもちろんありますが、形状そのものも用途によって分かれています。
タップはその加工方法で大きく二つに分けることができます。
・切削タップ・・・加工物(ワーク)を削ることでネジ穴を作る
・転造タップ・・・加工物(ワーク)を押し広げてネジ穴を作る
転造タップは、ワークに押し当てて目的のネジ穴形状に変形させるものなので、切粉も出ず理想的です。
切粉が出ないので、転造タップには他のタップと違って大きな溝がありません。しかし、金属を押し広げて変形させることは非常に難しいことです。
ですので、転造タップで使用できるワークは限られていて、柔らかい素材しか使用することができません。
そのようなことから、一般的に広く使用されているのは切削タップとなります。切削タップはその中でも様々な用途に使用できるよう、その用途に合った形状が存在します。
切削タップの4種類
上で紹介した4種類は切削タップで最もよく使用されているタップです。それぞれの特徴と用途を合わせて紹介していきます。
ハンドタップ
まず初めに、タップと言えばこれ!という最も定番のタップ「ハンドタップ」について解説していきます。
ハンドタップは、溝がストレートでタップが発明された時の一番最初の形状といえます。
ハンドタップでネジ穴を加工すると、切粉は細かくなって溝の中にどんどんと溜まっていき、切粉が溝に溜まったまま切削をしていくことになります。
また、刃先の強度が強いため、硬い材料にも使用することができます。
ハンドタップという名前はその名の通り「手作業のためのタップ」という意味です。ただし、だからといって手作業で使わなければならないとか、機械では使用できないというわけではありません。
「手作業=単品加工」「機械=量産」と捉えて頂ければわかりやすいのですが、ハンドタップは切粉を抱えこんでしまうため、量産の加工や自動運転の機械加工には適していないということです。
特に手作業でハンドタップを使用する際は、ネジ穴の中心にタップを差し込むのが非常に難しくなるので、食い付きの長さの違うタップ(1番タップ・2番タップ・3番タップ)を使用し2~3回に分けて加工することもあります。
これらは、1番・2番・3番タップと呼ぶこともあれば、先・中・上タップと呼ぶこともあり、それぞれ意味があってこの名称がつけられています。その理由もしっかり解説していきましょう。
1番タップ(先タップ)
一番最初に使用するタップです。
先端から9山分テーパー状に細くなっているため、弱い力でも簡単にまっすぐ真ん中に差し込むことができます。しかし、9山分も刃がないため、穴の入り口部分しかネジ穴を作ることができません。
一番最初(先)に使用するので、「先タップ」と覚えて下さい。
2番タップ(中タップ)
1番タップの後に使用するタップです。
先端から5山分テーパー状に細くなっています。1番タップで削ったネジ穴に沿って差し込んで使用するので、簡単にまっすぐ差し込むことができます。
また、すでにあるネジ穴を修正する際は、この2番タップを使用する場合が多いです。
マシニングセンタやNCフライスで使用する場合も、先タップを使用せずにいきなり中タップを使用することが多いです。
3番タップ(仕上げタップまたは上げタップ)
このタップは先端から1.5山分テーパー状に細くなっています。
1番タップと2番タップと比べてもわかるように、タップの刃として機能する部分が多いので、奥深くまでネジ穴を作ることができます。
通り穴であれば、1番や2番でも、しっかりとネジ穴を作ることができますが、止まり穴でギリギリまでネジ穴が必要な場合はこの3番タップが必須となります。
最後(仕上げ)に使用するタップなので、仕上げ(上)タップと呼ばれています。
タップ加工での注意点
手作業によって加工する場合は、一般的に、3分の2程度回転させてねじを切った後、3分の1回転分逆回転をさせて戻し、切粉を排出します。
細い径のタップはとても折れやすく、この作業をしないと、穴の中で折れてしまうことがあるので、気を付けて下さい。
タップが中で折れてしまった場合は、ハードドリルという工具や放電加工を利用してタップを破壊し取り除くことができますが、とても手間なので、折れないように慎重に作業を進めて下さい。
スパイラルタップ
続いて、これも定番でよく見かけるスパイラルタップについてです。
螺旋状(スパイラル)の溝があるのでスパイラルタップと呼ばれています。
なぜ、スパイラルになっているかというと切粉を上部(シャンク側)に排出するためです。
ハンドタップでは、切粉を抱え込んでしまうため量産で止まり穴加工を行うことは得意ではありませんでした。
しかしスパイラルタップのおかげで、上方向に穴の外まで切粉を排出してくれるため量産の止まり穴でも切粉が詰まることなく、加工ができるようになりました。
止まり穴の場合はスパイラルタップと覚えておけば問題ありません。
切粉を上部に排出するには溝形状以外にも切粉が長くつながるようになる工夫が必要です。切粉がつながるように、他のタップに比べ刃が鋭く切れ味が良くなっています。
スパイラルタップの溝の角度(ねじれ角度)も数種類存在します。ねじれ角度が強いほど切れ味は良くなります。
しかし、刃先の剛性が弱くなってしまい刃欠けをおこしてしまします。
逆にねじれ角度が弱ければ、切れ味は悪くなってしまいますが刃先の剛性は大きくなるため刃欠けはおこしづらくなります。
タップ自身が超硬材かハイス材かによりますが、炭素鋼など一般的な金属加工にはねじれ角度の強いタップ、耐熱鋼などはねじれ角度の弱いタップをご利用下さい。
ポイントタップ(ガンタップ)
続いて、これも色々な呼ばれ方をされることがありますが、一番一般的な呼ばれ方は「ポイントタップ」です。
ポインタップは、ハンドタップの溝にさらに斜面状の溝を入れた形状をしていて切粉を真下に排出します。
切粉を真下に排出するため、止まり穴に使用すると、切粉がすぐに詰まってしまい、ネジ穴を作ることができません。
通り穴加工にのみ使用して下さい。
それであればハンドタップでもよいのではないかと思いますが、ハンドタップよりも切粉の排出性が良く、タップとネジ穴の間に切粉が挟まりにくいので、量産機械加工でもしっかりとネジ穴を作ることができます。
また、スパイラルタップに比べ工具自体の剛性が高いので、通り穴の場合は迷わずポイントタップを使用しましょう。
まとめ
ネジ穴を開けるために、タップを買う時はワークが止まり穴なのか、通り穴なのか、また単品加工なのか、量産機械で使用するものなのかなどの観点をもって購入するものを決めなければなりません。
加工でお困りの際は切削工具再研磨・製造のツールリメイクまでお問い合わせ頂ければ加工のアドバイスも致します。
ツールリメイクではタップの再研磨はもちろんのこと、タップのレンタルサービスも行っております。
詳しくは、下記の「現場を変える、切削工具レンタルサービス。」をご覧ください。